「職務記述書」の内容と日本で雇用流動化が起きにくい理由

日本では長所を伸ばすよりも欠点を克服することが好まれます。本人も周囲の人々もその傾向が強いです。日本社会において、上司に使われることから、使い勝手の良いようになろうとする意識があると考えられます。

アメリカでは日本とは異なる労働制度であると聞きます。アメリカでは雇用する際、「職務記述書」の提示が義務づけられているそうです。ここでは、「職務記述書」について、整理したいと思います。

私が個人的に知っていることを書くよりは、きちんとした本の記述を用いて説明した方が良いと考えましたので、日経連出版部から出版された、笹島茂雄著『アメリカの賃金・評価システム』のP40~P43の「職務記述書」に関する記述から抜粋して説明します。

「職務分析で得られた情報を一定の様式に整理したものが職務記述書である。職務記述書の形式は企業によってさまざまである。」とあり、この本では、掲載されている形式例にある6つの項目の内容について説明しています。

「①職務特定
職務特定の部分には、職務名、職務番号、ステータス、所属部課名、上司の職務名、作成日、作成者氏名、承認者の氏名・職務名などが記述される。
職務名の設定は重要であると同時にむずかしい。単に職務内容だけではなく、企業内の他の職務との関係、他の企業の類似職務にも配慮して設定する必要がある。」

「②職務の概要
職務の概要の欄では、職務の主な特徴や職務内容を示す。」

「③職責と任務
職責を明示することにより、組織における当該職務の存在理由が明確になる。職責の数は3項目から7項目程度が適当であるとされている。職責を明示することにより職務が分割されることになる。職責を果たすためにはいくつかの任務を遂行しなくてはならない。すなわち、職責が任務に分割されることになる。」

「④説明責任
説明責任欄には、担当職務の職責および任務を適正に果たしたときに得られる成果を簡単に記述する。目標管理の目標設定の指標となる。」

「⑤職務要件
職務要件欄には、職務遂行で必要とされる知識や技術・技能の内容、就業する場所や場面での物理的精神的条件が記述される。職務要件欄の形式は、企業が採用している職務評価の項目(たとえば職務の複雑度、求められる知識・技術水準、人的接触度など)に合わせて作成するのが一般的である。」

「⑥作業条件
作業条件は職務遂行の場における不快な環境や不健康な環境の状況を記す欄である。」

以上が抜粋した内容です。
それぞれの記述には略した部分もあります。もし、興味を持たれたならば、直接、関係書物に当たって下さい。

私がこの記事の中では、「職務記述書」があることで、今の日本の社会と異なる特徴について以下の3点を挙げます。
もちろん、他にも違いはあるかもしれませんが、ここでは3点にします。

(1)職務記述書に書かれていない上司からの命令は従わなくても良いです。
(2)社会全体が職務記述書の提示を義務づけているので、スキル及び知識の水準が仕事を移る上で重要な能力基準となります。
(3)職務記述書に書かれる職務が似たような内容であれば、転職のハードルが低くなります。

それぞれの内容について説明していきます。
(1)職務記述書に書かれていない上司からの命令は従わなくても良いです。
そのため、上司の側は業績を上げるために新たに必要な仕事を考えた場合は、職務記述書に書かなくてはならないことになります。
つまり、欧米の国々の管理職や経営職は、日本より少なくとも一年先を考えて仕事を組み立てる必要が出てくることになります。

日本ではどうでしょうか。そんな面倒なことをしなくても、命令さえすれば良いです。部下はそれに従わざるを得ないです。
このやり方は、短期的な変化には対応しやすいでしょう。しかし、長期的に考えていなければ対応できない内容や構造変化を必要とする内容には対応しにくいと考えられます。

(2)社会全体が職務記述書の提示を義務づけているので、スキル及び知識の水準が仕事を移る上で重要な能力基準となります。

つまり、会社以外にも別の基準があることになります。
従業員側は会社から追い出されても食べていけるようにするために、スキルアップを行う動機付けになります。なぜなら、スキルアップをすれば所属会社以外にも評価してくれる会社がある可能性があるからです。

日本では、「企業組織間での労働力移動が極めて少ない閉鎖的な企業組織」が一般的なので、企業内の評価基準が一つです。
雇用流動化が起きないのも、所属組織の基準が圧倒的に高く評価されていて、他の組織の評価内容と大きな差があるからです。
スキルアップも上司に使ってもらえるようなスキルは自ら磨くが、他の基準のスキルを磨こうとする動機付けが乏しいと考えられます。

(3)職務記述書に書かれる職務が似たような内容であれば、転職のハードルが低くなります。
条件が良いところがあれば移動しようとする動機付けになります。
そのため、企業側が良い人材を囲い込もうとするならば、条件を良くしようと考えます。
条件が良くなれば、それは従業員の士気向上につながります。
もちろん、それはコストアップ要因にもなりますが。

一方で、日本は職務記述書で明確にすることもないので、転職する側には言われたとおりの仕事をするのかどうかも不安です。
そもそも転職市場が狭いです。
そのため、業績が上がらなければ、長時間残業の命令も行われ、ひどいところ(というよりも今は一般的ですらある)サービス残業を強要するような企業も出てきます。

以上が、職務記述書の説明です。

就職が事実上、就社になっている日本社会では、使い勝手の良いようになろうとする意識を持つのはやむを得ないことかも知れません。

IT業界のようにスキルが高い水準にあれば移動できる業界もありますが、少数派でしょう。

今は変化の激しい時代です。興味のある業界を観察していて、伸びそうな分野を見つけて、そのスキルを身につけることで、会社に貢献できる機会ができるかも知れません。

日本社会は人間の長所を伸ばすことに関心が薄いです。なにも職務記述書を導入するべきであるとは言いません。しかし、何らかの形で長所を伸ばして、その力を活用していくべきと考えています。

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