「デフレマインド」と「日本企業のコスト削減意識」との違い

近年の「日本企業のコスト削減意識」と「デフレマインド」は同じでしょうか。違うでしょうか。私は全て同じではないと考えます。両者の違いを考えてみます。
マクロ経済の現象としてのデフレと、日本企業の行動様式を結びつけた私の主張に違和感を持った人も少なくないでしょう。
このWebサイトに来た人は、日本経済がデフレを脱却する方法を考えるために、経済学を学びに来たのではないでしようか。それなのに、経済学の内容が書かれていないことに対して不満を持っている人もいるでしょう。

残念ながら、多くの政策が遂行されたにも関わらず、日本は1998年以降の長期デフレから脱却できていません。
デフレ脱却の期待を背負って実施されたインフレターゲット政策は、物価上昇率2%達成見通しを5度も先送りしました。5度も先送りして失敗ではない、とは言えないでしょう。

数々の政策はなぜ機能しないのでしょうか。
アベノミクスでは、十分な財政支出とともにインフレターゲット政策を導入しました。うまくいかないのなら、アベノミクス以上の規模で実施しなくてはならないのでしょうか。
むしろ、日本経済の特殊性に目を向ける必要があると考えます。なにしろ、日本は過去に経済学者がうまく説明できないほどの高度経済成長をした国なのですから。(他国の労働制度では長期デフレに耐えられない)

経済学の理論だけでは、日本経済が特殊なだけに実態と離れた理解になる可能性があります。それを修正しようとするのが私の立場です。
その1つが、「デフレマインド」と「日本企業のコスト削減意識」との違いです。
経済学者の多くは、現在の日本企業はデフレマインドが定着していると考えています。

デフレマインドとは、デフレが長く続くと考えた場合に有利な行動様式のことです。物価上昇率がマイナスなら現金をそのまま持っていても現金の価値は上がります。そのため、消費や投資を手控える行動様式です。
その延長線上で考えると、自らの投資を手控え、顧客が消費しないだろうと考えれば、高付加価値の財を提供するよりも、コスト削減を行うことになります。その意味では、コスト削減はデフレマインドから生まれる行動の1つと言えます。

確かに、企業としては、「もう少し安くならなければ売れない」と考えて行動することはあるでしょう。非正規労働者を雇用してコスト削減を図ろうとしている企業も多いです。また、現実に物価が下がっています。
上記内容は、デフレマインドではないとは言いにくいでしょう。しかし、これらの行動を全てデフレマインドとして片付けるのは違和感があります。

日本企業は、高度経済成長期の頃から「安くて良いモノを」提供することを目指していました。日本企業にとってコスト削減は改善・改良の1つの分野なのです。
1998年から労働需給が緩和し、失業率が高くなり、非正規労働者を雇用しやすくなったので、非正規労働者を雇用してコスト削減を図る企業が多くなっています。
しかし、コスト削減は高度経済成長の頃から行っていました。日本はデフレ前から物価が安定していて、アベノミクスが実施されるまで、先進国の中では唯一インフレターゲット政策を取り入れていなかった国でした。
1994年から物価上昇率は1%以下の低い水準でした(消費税を増税した1997年と2014年、ガソリン価格等が上昇した2008年を除く)。

日本企業の多くは、高い水準まで経済が発展したために、他の分野(スペック向上、携帯性向上、仕掛品の不良品率低下など)で改善・改良する余地が少なくなってしまいました。
これまでの高度成長の成功体験で成果を出すことが求められていたために、その勢い(組織的慣性)もあって、改善・改良できなくなった分野の労力を「自律的に」コスト削減に振り向けたのです。
コスト削減は自律的に取り組むべき主要な課題となりました。

現在、多くの外国人観光客が日本に訪れています。バブル崩壊時には、物価が高すぎて、とても観光に行けないと言われていました。円安の効果があるのも事実ですが、多くの製品やサービスがコストパフォーマンスに優れていると、多くの外国人観光客に評価されています。これは、コスト削減を自律的に取り組んできたからこそ、と考えます。

日本がデフレから脱却するには、「追いつけ追い越せ行動様式」の一部を修正して、この行動様式にない、今の「日本企業が挑戦したがらない」分野に挑戦することが必要と考えます。
(日本の長期デフレの要因「追いつけ追い越せ行動様式」とは)

裏を返せば、日本企業が成長する余地を見つけることができれば、コスト削減努力をそちらに振り向ける可能性があります。それは、デフレだろうがインフレだろうが関係ないと言いたいのです。
「追いつけ追い越せ行動様式」では、技術革新がなければ改善・改良の余地がないと考えていることです。そのため、周りにあるチャンスを生かすことができていません。そこに問題があると考えています。

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