日本は経済発展段階が高い水準に到達したので、不足している時の食料や、普及期の耐久消費財を買おうとしている時のように切羽詰まったような行動をしません。
その分、公共投資の波及効果は、小さくなったと考えるべきでしょう。
過去にはエンゲル係数という概念がありました。
所得に占める食費の割合です。
貧しい人々はエンゲル係数が高い傾向にあります。
食費は生活に欠かせない消費であるため、他の消費がなされないことを説明できる概念でした。
『普及期に消費増加を促す耐久消費財が今は普及し終わっている』で耐久消費財の普及過程では、所得が増加したら耐久消費財の消費が多くなる傾向があることを書きました。
では、経済の発展段階がさらに上に行き、食料も耐久消費財も満たされた場合、それ以外で所得増加に伴って消費が増加するような対象があるでしょうか。
例えば臨時収入を得た時にすぐに何かを消費するでしょうか。
個人の中では消費するものが目に浮かぶかもしれません。
自動車が好きな人は自動車の関連製品を買うかも知れません。
旅行好きな人はすぐに旅行に使うのかも知れません。
何かのコレクターならすぐにその対象を買う人もいるでしょう。
だが、社会現象として、所得が増加した場合に人々が同じ行動をすることはないでしょう。
基礎的な生活を形作る消費は満たされているからです。
消費の多くが基礎的なものではなく、精神的な満足度を満たすための領域に掛かってきているのではないでしょうか。
そうなれば、当然、消費する対象は個人によって変わってきます。
そのような状態で先行き不安を抱えていればどうでしようか。
貯め込むことになるのではないでしょうか。
もちろん、今は多くの製品及びサービスが世の中に出回っており、それらの誘惑はあります。
人々は自分の所有しているものを除いて、欲しいものは少なからずあるでしょう。
だが、食料や普及期の耐久消費資材を買おうとしている時のように切羽詰まったような行動をしないでしょう。
先行き不安が消費に結びつかないのは、貯蓄が精神的な満足度を高める対象になっている可能性もあります。
ひどい言い方をすれば、貯蓄が「身の安全を守る」商材になっているかもしれません。つまり、「将来への不安に対応する安心感を買う」と言い換えることができます。
それは「精神的な満足度を満たすための領域に掛かってきている」消費と代替する対象となるのではないでしょうか。
現在は、経済発展段階が高い水準に到達したので、消費の多くが基礎的なものではなく、精神的な満足度を満たすための領域に掛かってきています。
そのような状態の中で、日本には先行き不安があり、個人消費が伸びません。
公共投資の波及効果は、所得増加に伴う消費増加が行われなくなった分、小さくなったと考えるべきでしょう。
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