2016年のノーベル医学・生理学賞に大隈良典・東京工業大学栄誉教授が受賞されました。
たんぱく質などを分解する、「オートファジー」と呼ばれる仕組みを解明した実績が評価されての受賞だそうです。
日本人として、本当に誇りに思います。
心からおめでとうございます、と申し上げます。
ノーベル賞は、2000年に白川英樹氏が受賞すると、それ以降、科学3分野で日本人の受賞ラッシュが続いています。
白川氏からの17年間で南部陽一郎氏(受賞時に米国籍)を含む17人が受賞し、毎年1人のペースでわが国は世界最高賞の受賞者を輩出しています。
技術分野の功績を讃えた世界最高賞の受賞が報道されると、賞賛一色の報道になります。対象がその受賞者だけなら、それで良いでしょう。
一部ではその対象を日本人全体に広げて「日本人は優秀だ」と盲目的に言う人も少なくありません。それには賛同できません。
日本経済は今衰退傾向にあります。日本人全体が優秀なら、その結果をどのように説明するのでしょう。
私は、ノーベル賞受賞者が多くなるにつれ、もう一つの意味でうれしく感じています。
その意味とは、2000年以前には当然のように言われていた「日本人には創造性がない」という説が説明つかなくなっていることです。
2000年以前には、日本が先進国から「追いつけ追い越せ」と頑張って、技術導入を図って多くの製品を作り上げていました。そのことから、日本人全体が創造性がないと言う人が欧米人だけではなく、日本人にも多くいました。 ノーベル賞受賞者の少なさから、それを日本人全体に対象を広げて、日本人が創造性がない根拠に主張している人もいました。
2000年以降のノーベル賞受賞者数の観点からは、「日本人は創造性がない」のではなく、「日本人は創造性がある」と言えます。
私は、実際に2000年以前に日本人の創造性について議論したことがあります。
もう15年以上前になります。
未だに議論した内容をほのかに覚えています。
知り合いを通じてエリートと呼ばれる官僚達と日本の将来について議論しました。
その前提の一つとして、彼らが言っていた言葉が「日本人には創造性がない」でした。
「日本人が新しい概念の製品を創り出すことはない。」
「日本人が新しい産業分野を創り出すとは思えない。」
その時集まった彼らの結論は、日本が発展するには、日本人が身を粉にして働くしかない、でした。
その結論を受けて、日本の発展のキーとなるのは、日本人が働くためのモラールが高いままで維持できるのか、でした。
エリートと言われる人々が今はどう思っているのかはわかりません。
少なからず、今でもそのように思っているかもしれません。
私はその時、「何を根拠に日本人の資質に否定的なことを言うのか。」と反論しました。
確かに、欧米を驚かせるような新しいものを生み出したわけではありません。
だが、安易に日本人の資質を否定的に言うことに我慢ができませんでした。
高度経済成長期に、欧米諸国は日本の成長を見て、「ものまねはうまいが創造性は無い。」と批判していました。
彼らのものの言い様は、欧米諸国の批判の受け売りと思ったからです。
彼らは「ノーベル賞受賞者を見ても日本人は少ないではないか。」と反論しました。
ノーベル賞受賞者の多い少ないが、その国民の創造性を表すことにどれだけ意味があるかはわからない、と反論しましたが、その場にいた人々には受け入れられませんでした。
私はさらに反論を続けました。
日本の産業分野では創造性が無ければ発展しなかった分野が存在します。
例えば、ゲーム業界、アニメ業界、等はどうでしょう。
これらの業界は日本にしかない文化を創り出しました。
それらは産業として成り立っています、と。
2000年以前には「日本人に創造性がない」ことに対して、言葉を尽くして反論しなければなりませんでした。今はノーベル賞の受賞者の数の話だけでも、簡単に反論できます。時代は変わった、と感じます。
私がなぜ「日本人には創造性がない」という議論が行われることにこだわるのでしょうか。
それは、日本でイノベーションが少ない理由の1つと未だに考えている人がいるからです。
つまり、日本人には創造性がある、ならば、なぜ日本でイノベーションが少ないのかを説明しなくてはならないことになります。
日本の得意分野であったデジタル家電は、他国の製品に対して優勢とは言えません。
優良企業の一つと言われていたシャープは経営が苦しくなりました。
携帯電話に国民の1人1人が多くの金を投じていたはずなのに、スマートフォンという新しい概念の製品を創り出すことができませんでした。
創り出せなかっただけでなく、開発競争に大きく出遅れて、世界で見るとスマートフォンの販売シェアは主要メーカーではなくなり、零細企業の一つに成り下がってしまいました。
毎日手に取るスマートフォンが日本製でないことに、ガッカリ感を持っている人は少なくありません。
小さくて精巧で機能的な製品を作り出すのは、日本が得意だったはずなのに、と思う気持ちはわかります。
コンピュータも多く作っていたが、タブレット端末も最初に創り出せませんでした。
確かに、この分野の状態を見れば、「日本人に創造性はない」と言いたくなるのはわかる気がします。
しかし、日本のノーベル賞受賞者の数を見れば、日本人の創造性はあります。
このように考えると、日本人の創造性というような資質を問題視するよりも、日本社会に創造性を阻む何かがある、と考えた方が適切ではないか、と考えるべきではないでしょうか。
つまり、日本企業の創造性欠如は、組織問題に起因するのです。
そして、組織問題の1つが組織硬直化なのです。
日本人か組織硬直化の問題を軽視するからこそ、イノベーションが起きず、日本経済が衰退を続けているのです。
日本の長期デフレが貨幣問題などと脳天気なことを言っているから、衰退を続けているのです。
コメント