なぜ組織硬直化が進行すると情報取得能力が低下するのか

新しい変化が生じると、従来のやり方で進めていた業務に問題が生じます。
この新しい変化は、財を提供しようとする相手の消費者側の変化もありますし、技術の進化、パートナー企業の発達等の提供者側の変化もあります。

多くの場合、提供者は一人で全ての業務を行いません。一人で行うのは個人事業者しかいません。企業は職務を分担して、業務プロセスに沿って業務を行います。
分担し、業務プロセスに沿って、その間にルールを作り、運営します。その設計は最初の時に最も良い状態にする目的で行われました。ならば、時が経てば経つほど、最も良い状態から離れていくことになります。

厳しい言葉を使えば、「組織硬直化は組織が始まった時点から進行していく」のです。

組織硬直化を進行させる概念の1つは「効率化」です。

本来、環境変化に対応することで最も良い成果を得ることになるのなら、環境変化に対応するようにすることが、最も「効率化」を図ることになります。

だが、業務を分担された現場の従業員は、自らの与えられた業務を効率的にこなそうとします。これを「個別最適」と言います。対義語は、組織全体の目的に沿って最適化を図る「全体最適」です。

能力に比べて過大なノルマで尻を叩かれている状態では、業務量をこなすことが優先されます。環境変化に対応するような非定型な取り組みは「個別最適」では「効率的」ではないと考えるようになります。

新しい変化が生じると、従来のやり方で進めていた業務に問題が生じます。

その問題に対して、「全体最適」を優先するならば、その問題を解決しようとします。
だが、「個別最適」しか考えないようであれば、問題があることを認識していても、解決を先延ばしにします。

その結果、情報取得能力低下が以下のように進行します。

問題があると認識して、解決のために情報収集をします。

問題があると認識しているが、解決のための情報収集ができません。

問題があると認識しなくなります。関係情報にも無関心になります。

情報を情報と感じる感度が低くなり、目に見えた問題が生じても問題とは思わなくなります。

これをお役人が「前例がない」と断る場面に応用してみましょう。

「これは問題だと思った。解決しようと情報収集して上司に解決案を提案したが、『前例がないからできない』と断られた。悲しいが、『前例がない』と言って断ろう。」

「これは問題だと思った。だが、上司から『他の仕事も溜まっているのに、余計なことをするな。』と言われている。やむを得ず、『前例がない』と言って断ろう。問題であることは確かだと思うが、ここで情報を収集できなかったので、どれだけ大きな問題なのか、解決可能性がどれだけあるのかもわからない。」

「『前例がない』と断るが、他に何かしなくてもいいのだろうか?情報収集するとして、何が必要な情報なのだろう?」

「『前例がない』と言えば仕事になるのだから、余計なことをしない。情報収集なんかしなくてもいいだろう。」

同じ『前例がない』と断っていても、持っている情報の質・量や認識は各段階で大きく異なります。
(これはあくまでも例示であって、個別のお役人がどこの段階にあるのかは私は知りません。傾向も知りません。議論をするつもりもありません。)

このような順序で、解決から遠ざかり、解決のために必要な情報からも遠ざかり、最後には、情報とすら認識しなくなります。
最後の状態になってしまうと、もはや何らかの不祥事が起きない限り、問題にすらならなりません。

多くの場合、ビジネスは「自分達の得手で顧客を喜ばす」ことで成り立ちます。
「顧客が喜ぶことを探り」、「自分達の得手で喜んでもらえる財を提供して」、「顧客に喜んでもらえるように運用する」ことで成り立ちます。

先の段落で説明したのは、「顧客に喜んでもらえるように運用する」の部分ですが、運用の際に得た環境変化に関する情報を得られなくなれば、「自分達の得手で喜んでもらえる財を提供」の部分に必要な情報に穴が空きます。そのため、効果的な問題解決ができなくなります。

同様に、「自分達の得手で喜んでもらえる財を提供」する部分の情報に穴が空き、効果的な提供ができなくなると、「顧客が喜ぶことを探」る意味が低下してしまいます。
両者は相互関係にあります。

その結果、硬直化が進行すると情報を情報と感じる感度が低下してしまう傾向があります。

日本人の多くは、組織硬直化を重要な問題であるとは認識していません。
また、組織硬直化は情報収集能力と関連があることも認識していません。この現状に私は強い危機感を持っています。

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