ビジネスモデル・キャンバスを使いこなす思考的条件とは

ある時、私がカフェでパソコンに向かって作業していると隣の席に女性が座りました。
見た感じ、何か美容関係の仕事をしていて、仕事をバリバリしているように見えます。
目立っていました。
その女性はおもむろにノートを取り出し、あるページを開きました。
それからペンを取り、考え込みました。

別に女性として意識していたわけではありません。
なかなか作業が進んでいないようで、うまくいかない感じが隣の私に伝わってきます。
作業が一区切り付く毎に、何度かちらっと横目で様子を見ました。

ペン先をノートに置いているが、なかなか書き込んでいるようには見えません。
時には、ペンを両手で動かしたり、頭をかきむしったり。

私は2時間ぐらい作業して、外にでました。
一体、何を書こうとしていたのだろう?
少し気になって、出る時にちらっとノートの中身を見ました。

ビジネスモデル・キャンバスの様式がありました。
5、6個の単語が書き込まれていました。
ただ、それだけでした。

ビジネスモデル・キャンバスとは、企業活動を9つの要素に分類し、それぞれがどのように関わっているのかをデザインするものです。

the-business-model-canvas ←クイックするとpdfが表示されます。

出典:Strategyzer

9つの要素とは、
・顧客(Customer Segment):CS
・与える価値 (Value Propositions):VP
・チャネル (Channels):CH
・顧客との関係 (Customer Relationships):CR
・収入 (Revenue Streams):RS
・キーリソース (Key Resources):KR
・キーアクティビティ (Key Activities):KA
・キーパートナー (Key Partner):KP
・コスト (Cost Structure):CS
です。
この9つの枠の相互関係性を思考するに適した様式になっています。

別にビジネスモデル・キャンバスをディスるつもりはありません。
あの様式の良さはなかなか伝わりにくいように思えます。

様式にただ書き込むだけに見えて、簡単に見える人もいます。
実際、一次案として、とりあえず書き込むだけなら、誰にでもできそうです。
もちろん、そんなことでは良い考えなど生み出せません。

あの様式の良さは、試行錯誤することでビジネスを深く考えることができることです。
1つの場所を変えたら、整合性を取るために、幾つかの枠に書く内容も変わってきます。
1つを変え、整合性を取り、さらに変わったところの整合性を取る、ということで、何度も何度も書き換えながら、考えを深めることができます。

この考えを深める様が、油絵を薄い色の上に濃い色を塗って完成度を高めるがごとく、キャンバスに絵を描くように見えます。
デザインするとは、このような状態を言うのではないでしょうか。

ビジネスモデル・キャンバスは最初から完璧なものを書こうとすると、良いものが描けないのです。
冒頭に説明した彼女のようにペンが止まってしまうのです。

なぜ日本でビジネスモデル・キャンバスが普及しないのか。
その要因の1つとして、日本人が試行錯誤すること、デザインすることに慣れていないことです。
ビジネスモデル・キャンバスの利点を生かせないのです。

その他の要因として、日本人は「顧客」及び「与える価値」を考えることに慣れていないことが挙げられます。
ビジネスモデル・キャンバスを書く手順として、最初に「顧客」を、次に「与える価値」を書き、その後に他の枠を埋めていきます。その最初の段階で、多くの人がペンを止めてしまうのです。

なぜでしょうか。
考えられるのは、日本人のビジネスの特性にあります。
「より良いものをより安く」提供しようとする傾向が強いです。

私は「追いつけ追い越せ行動様式」と名付けています。(日本の長期デフレの要因「追いつけ追い越せ行動様式」とは

過去からの傾向が変わらないことを前提に、より良いスペック、より安い価格にすることで、顧客に評価してもらおうとする考え方です。

このように考えれば、「顧客」も「与える価値」も考える必要はありません。
もっと個別の案件での「顧客」「与える価値」を考えることが習慣化することが大切です。

もう一つ、「顧客」については、あまりに小さな市場だと、ビジネスとして考える意味があるのか、と反発されることがあります。
「与える価値」を考えるには、より具体的な「顧客」に絞り込んだ方が効果的です。
大きな市場を考えると顧客を具体的に考えることができにくくなってしまいます。

これまで挙げた3つの要因は、どうすれば良くなるのでしょうか。
ビジネスモデル・キャンバスよりももっと単純化して、ビジネスを考える様式を作り、それを日常的に使うことで、思考法に慣れることが考えられます。

その単純化した様式を作りたいと私は考えています。

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