日本で大きな地震が起きると、被災者がパニックを起こさずに耐えて、行政や支援者に動き易いように配慮する状態がテレビに映し出されます。それを見た多くの海外の人々に、被災者の態度がインターネット上で賞賛されます。
熊本地震の時も、東日本大震災の時もそうでした。
被災者の方々は大変だと思いますが、これらの賞賛は日本人として誇らしくもあります。
それだけパニックに起こさず耐える日本人だからこそ、長期デフレにも耐えられる、ということなのか、というと、そのような意味ではありません。
耐えると言っても、国民1人1人の忍耐力のことではありません。労働制度の話です。
日本の労働制度が特殊で、今の長期デフレは日本だからこそ起きた現象である、と説明したいのです。
つまり、全世界に普遍的な貨幣現象ではない、と主張したいのです。
高度経済成長の頃だったと思いますが、「日本の常識は世界の非常識」などとおどけて話す人がいました。これは、労働制度に限って言えば、その通りです。むしろ、この言葉は日本の労働制度が生んだ言葉ではないか、と思えるぐらいです。
日本で就職と言いますが、実際は「就社」です。同じ会社の中で人事異動を経て様々な仕事をします。言葉通りの「就職」であれば、職は変わらないはずですが、そうではありません。
時代が変わって、今になっても大きくは変わりません。技術が必要なIT業界では、スキルによって転職する人はいます。しかし、全体から見れば少数です。
ところが、海外では、言葉通りの「就職」です。
例えば、アメリカでは、社会全体が職務記述書の提示を義務づけているので、職務記述書を提示して、契約を結びます。
日本でも就職時に契約が結ばれているという人がいると思いますが、その内容は全く異なります。
この職務記述書には、職務特定、職務の概要、職責と任務、説明責任、職務要件、作業条件などが明示されています。つまり、職務をきちんと定義して、労使話し合いの上で、契約して働くのです。日本ではそのようなことまでする企業は極めて少数でしょう。
そうなると、日本とはどのような違いが出てくるのでしょうか。。他にもあると思いますが、ここでは以下の三点を指摘しておきます。
①職務記述書に書かれていない内容を命令されても従わなくても良い
②スキル及び知識の水準が仕事を移る上で重要な能力基準になる
③職務記述書に書かれる職務が似たような内容であれば、転職のハードルが低くなる
この三点を見ればわかるように、個人のスキルを磨くことを前提として、働いている会社の処遇が不満なら、他の会社に移っても良い状態にあります。つまり、社会的に他の会社に移ることが社会インフラになっています。
ここで、デフレが起きた場合のことを考えてみましょう。
デフレが起きると、物価が下がります。
価格が下がって、その分販売量が多くなれば話は別だが、デフレの場合はそうはなりません。
・販売量が変わらず、価格が下がれば、その分、利益が圧縮されます。
↓
・利益が少なくなると、賃金は利益から回すので、賃金を払う原資が少なくなってきます。
↓
・賃金が払えなくなれば、誰かをクビにして人件費を減らさなければならなくなります。
↓
・失業者が街中に溢れます。
このような経緯をたどって、失業者数が大幅に増加します。
だから、他国の労働制度では長期デフレに耐えられないのです。 職務を定義して、きちんと契約が結ばれているのであるから、経営が苦しくなったからと言って、日本のように我慢してくれ、というわけにはいきません。
その点、日本の労働制度は、同じ会社の中という制約がありますが、柔軟性があります。
労働移動があまり行われない閉鎖的な状態です。昔よりも転職が多くなってきたとは言え、まだ少数派です。
そうなると、例えば、今年は苦しいので、ボーナスは出せない、ボーナスだけではなくて基本給も5%減で我慢して欲しい、と頼まれて、会社の外に放り出されるよりもマシと考えて、しぶしぶ承諾する場合もあるでしょう。
さらには、定年退職者が出た職場では、その退職者の仕事を残った従業員に割り振り、その仕事をするために量が多くなってできなくなった仕事を、賃金の安い非正規労働者に代替するなどのコスト削減策で乗り切っているところもあるでしょう。
このように、日本の長期デフレは日本でしか成立しないのです。
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