安倍首相が2013年に国会答弁で「デフレとは貨幣現象です」と説明しました。では、貨幣現象とは何でしょうか。調べてみましたが、私の調査力不足からか具体的な定義はわかりません。
言葉から受け取れば、貨幣の価値の上下が関係する現象と考えられます。
デフレ期は現金を持っていた方が得になるから投資しない、デフレ期を脱却すれば投資が増える、と良く説明されます。この説明は、デフレを貨幣現象と捉えています。
デフレが貨幣現象と考えれば、マネタリーベースが少ないことデフレの原因である、という説明も筋が通っています。
マネタリーベースとは、日本銀行(https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exbase.htm/)によると、
『マネタリーベースとは、「日本銀行が供給する通貨」のことです。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値です。』と説明されています。
わかりやすい説明と言えます。ですが、そんなに単純でしょうか?
仮に上記のような定義の貨幣現象であるなら、金融政策で解決可能と説明できます。
インフレの場合、政府が未熟で紙幣を増発し過ぎて、発展途上国にハイパーインフレになる事例があります。それは、貨幣流通量が多くなり過ぎて、貨幣の価値が下がったために起きた現象です。このような事例は貨幣現象と言っても良いでしょう。
仮に日本銀行が多くの資金を吸い上げた場合、銀行が融資しようにも現金が無くて、融資ができない、というような現金がないことでの機会損失がある場合、現金を持っていることの価値が増加することになります。そうなれば、現金を持っておいた方が良い選択というのもわかります。
昭和金融恐慌時、高橋是清大蔵大臣が片面だけ印刷した200円札を増刷して現金の供給に力を入れ、金融不安は収まりました。この時にデフレが起きていれば、貨幣現象だったと説明できます。
普通に運営していれば、貨幣量が需要より少ない状態に日本銀行がするわけがないでしょう。デフレが起きにくいのは、インフレと異なり、貨幣現象になりにくいからではないでしょうか。
デフレ期は現金を持っていた方が得になるから投資しない、デフレ期を脱却すれば投資が増える、と良く説明されます。しかし、それはあまりにも無理があるように思えます。
今やマイナス金利です。10年国債の利率も雀の涙です。この情勢なら、投資して儲かると判断すれば、投資するのは当然でしょう。ここで投資しないのは案件がないだけ、の方が遥かに説得力があります。
仮にデフレが貨幣現象であるとして、マネタリーベースを多くしても、銀行の融資があまり増えません。これでは、デフレ脱却のための効果は薄いと考えるべきでしょう。
企業の内部留保が少なくならない現状では、マネタリーベースが多くなっても、インフレにはならないでしょう。
銀行が融資して、内部留保が少なくなり、その分、賃金が多く支払われれば、貨幣流通量は増えます。そうなれば、今とは異なった効果が生まれるでしょう。
しかし、今は銀行から企業への融資はそれほど増えず、内部留保は多くなり、賃金の支払いは増えません。これでは近くに金の山があるだけで、何の変化も起きません。
企業側も銀行があれこれ口を出してくるので、内部留保を多くしたくなるのもわかります。しかし、本来は口を出してくる銀行にも資金を貸してもらいたいような案件があれば、銀行からの貸し出しは増えるのです。
日本の長期デフレは軽微な物価低下率であることから、マネタリーベースに関係なく、日常行動の積み重ねで結果として物価が低下しているだけと考えた方が遥かに現実的でしょう。
何よりもアベノミクスという壮大な実験をしても、デフレを脱却できませんでした。そのことが、日本の長期デフレは貨幣現象ではないことを証明してくれるでしょう。
安倍首相が日本の長期デフレに根本的な認識の誤りがあったとするならば、アベノミクスが失敗するのは必然と言えるでしょう。
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